「鉄筋コンクリート=静か」とは限らない現実
「鉄筋コンクリート造(RC造)の物件は、防音性能が高いから安心」
と思って入居したのに、
隣の話し声や生活音が聞こえる。
そんな違和感やストレスを感じていませんか?

この記事では、鉄筋コンクリート造でも生活音が漏れてしまう原因を、
一級建築士の視点からわかりやすく解説します。
そのうえで、賃貸でも今すぐ取り入れられる現実的な防音対策を紹介します。
RC造に住んでいるのに音のストレスがある方、
これから引っ越しを検討している方にも役立つ内容です。
正しい知識と対策で、音によるストレスを最小限に抑えましょう。
RC造は基本的に防音性が高いが、音が漏れる経路もある
鉄筋コンクリート造は、構造体そのものに重さと密度があるため、
音の伝わりを抑える力が高いとされています。
たとえば、厚さ150mmの鉄筋コンクリート壁の部屋であれば、
遮音等級(Dr値、D値とも)でDr-50〜Dr-55程度が期待できます。
これは、隣室からの会話がかすかに聞こえるか、ほとんど聞こえない程度の性能です。
しかし、現実には、
「隣のテレビの音が聞こえる」
「深夜の笑い声で目が覚める」
といった事例もあります。
これは、建物の設計や部材の使い方、経年劣化などによって音が漏れる経路が生じるからです。
RC造と聞くと、すべての壁がコンクリートで囲われているような印象を持ちがちですが、
実際には界壁(隣の部屋との仕切り壁)の一部に石膏ボード・軽量鉄骨(LGS)が使用されているケースもあります。
また、気密性が低下した開口部や天井裏の構造なども、音漏れの原因になりえます。
RC造なのに隣の声が聞こえる3つの構造的原因
①間口6m以下の1K・ワンルームでは、壁の一部がボード壁の可能性

特にワンルームや1Kタイプのコンパクトな間取りで間口が6m以下の場合は、
建物の片側の壁がコンクリートであっても、
もう一方は「ボード壁(LGS+石膏ボード)」で施工されている場合があります。
このような構成では、遮音性能はD-40〜D-45程度に留まります。
このレベルでは、隣の話し声が聞こえる可能性があり、
「RC造だから安心」という先入観と大きなギャップが生じます。
特に、築年数が10年以上の単身者向け物件では、このような仕様が珍しくありません。
設計段階で「音よりもコストや施工性を優先」しているケースも多いためです。
②経年による窓まわりの気密性低下・ガラス性能の不足

RC造の遮音性能が高くても、窓や玄関ドアの気密性が低いと、そこから音が出入りします。
築20~30年以上で改修がされていない物件は、
窓のアルミサッシのガタつきやパッキンの劣化が進んでおり、
隙間から外気だけでなく音も侵入しやすくなります。
特に、道路沿いの物件で「昼も夜も車の音が気になる」と感じる場合、
窓ガラスの遮音性能が低い可能性が高いです。
③コンセントボックスや換気ダクトまわりの気密欠損
音はわずかな隙間からでも漏れます。
代表的なのが、コンセントボックスや配管周辺、換気ダクトです。
施工時にこれらの周囲が適切に気密処理されていないと、
壁そのものがRC造であっても、音が通り抜ける「抜け道」になってしまいます。
実際、気密欠損がある壁面では、遮音性能が10dB以上低下することも。
施工時の配慮不足や老朽化が原因になるケースが多いため、
賃貸では入居者側での根本的対策が難しいこともあります。
NG防音対策に注意|効果の薄い例と失敗例
音漏れ対策として「とりあえずこれをやっておこう」と思って導入した防音グッズが、
実はほとんど効果を発揮していないケースもあります。
たとえば、以下のような対策です。
①市販の防音シートを壁の一部だけに貼るのは効果が限定的

防音シートの多くは、質量を増やすことで音の透過を抑える製品です。
スポンジやフェルトのような素材で作られた吸音材は、
音の反響や残響を抑える「吸音」には役立ちますが、音を遮る「遮音」性能はありません。
しかも、壁の一部だけに貼っても音は回り込んで侵入するため、十分な効果は得られません。
実際、遮音効果は「面密度(kg/m²)」に比例するため、1㎡あたり2〜3kg以上の質量が必要とされます。
市販の防音シートではそこまでの質量を確保できない製品も多く、結果的に体感できるほどの音の低減には至りません。
②壁を叩く「壁ドン」は逆効果。トラブルのもとに
音に対するストレスが高まると、つい壁を叩いて相手に抗議したくなる気持ちは理解できます。
しかし、「壁ドン」は騒音トラブルの火種となる行為です。
感情的な対応は、自身が迷惑行為の加害者になってしまうリスクもあります。
まずは冷静に原因を見極め、構造と原理に合った対策を取ることが重要です。
今からできる!賃貸でも実践しやすい防音対策3選
ここからは、工事ができない賃貸住宅でも、比較的簡単に実践できる防音対策を3つ紹介します。
①家具(本棚・収納)を壁際に配置する

音の伝わりを少しでも軽減するには、本棚やクローゼットなど背の高く質量のある家具を音が気になる壁際に配置するのがおススメです。
その際、できるだけ壁にピッタリと設置するのがおススメです。
これは、遮音性能に深く関係する「質量則」に基づく方法です。
質量則:「壁や材料が重く(=質量がある)なるほど、音を通しにくくなる」という防音の基本ルール
本棚、タンス、大きな収納など重くて中身が詰まっている家具を壁際にピッタリと置くと、壁自体の質量が増したのと同じ効果が得られ、隣からの音を軽減できるわけです。
素材は、スチール製や厚みのある木製がおススメです。中にぎっしり本や雑貨を詰めることで密度を上げましょう。
②ホワイトノイズマシンを使う

ホワイトノイズとは、全ての周波数の音が均一に含まれているノイズです。
川のせせらぎや滝、雨音、エアコンの「サーッ」という音などがこれにあたります。
これを意図的に流すことで、外からの生活音の周波数を打ち消す=マスキング効果が期待できます。
特に、
- 隣の話し声が小さく聞こえてしまう
- 壁の向こうの咳払いやいびきが気になる
- 静かすぎて音に敏感になってしまう
といった悩みを持つ方には、とても効果的です。
個人的には、ホワイトノイズマシンがおススメです。安価に購入でき、高いマスキング効果が期待できます。
※人によってはホワイトノイズ自体が気になるケースもありますので、Youtube等で視聴できる無料のホワイトノイズ音源を短時間試してみるのがおすすめです。

過去に住んでいたアパートの壁が薄く、隣人の生活音が気になり寝付けないことがありました。その時にこのホワイトノイズマシンに出会い、暮らしが守られました(笑)
▽おすすめのホワイトノイズマシン紹介記事はこちら▽
③窓や玄関ドアの隙間を市販のテープでふさぐ

窓やドアの隙間から音が入りやすい場合、
すき間テープやパッキン材を使って気密性を上げることが有効です。
特に築年数が経っている物件で有効です。
開け閉めに支障が出ないよう注意しながら、上下左右の枠を丁寧に処理しましょう。
引っ越しを考えるなら|次に選ぶべき物件のチェックポイント
どうしても現在の住まいでの音漏れが改善しない場合、住み替えを検討するのも現実的な選択肢です。その際には、以下の3点をチェックすることが重要です。
①界壁(隣の部屋との仕切り壁)の構造を確認する
「RC造」と表示されていても、界壁がすべてRCとは限りません。
ボード壁が使われている場合、遮音性能は大きく低下します。
不動産会社やオーナーに「隣戸との壁はRCか、それともボードか」を確認するようにしましょう。
②内覧時に反響音をチェックする(手を叩く)

内見の際、部屋の中央で手を叩いて反響を確認してみましょう。
手を叩いたときに「キーン」「カンカン」とよく反響する場合 ▷吸音されず音が反射しているため、遮音性が高い構造である可能性 音が「ボフッ」「ドン」と吸収されるように響く場合 ▷壁や床から音が抜けているため遮音性が低い (または、吸音材が使われている可能性もあります) |
つまり、音がよく反響する部屋ほど、音が反射する=遮音性が高いという考えです。
また、周囲の生活音や外の交通音がどの程度聞こえるかも、五感を使って確認しておきましょう。
③なるべく築浅の物件を選ぶ
一般的に、築年数が浅いほど窓やドアの気密性が高く、防音性能も保たれやすい傾向にあります。
特に、最近の省エネ基準に準拠した建物は、
気密性能が向上しているため、外部騒音にも強くなっています。
まとめ|RC造の限界を理解し、できる対策から始めよう

鉄筋コンクリート造の建物は、確かに木造や軽量鉄骨造に比べて遮音性能は高いです。
しかし、構造的な抜け道や経年劣化の影響によって、音漏れは完全には防げません。
まずは、構造や素材に関する知識を持つことが大切です。
そのうえで、家具配置やホワイトノイズなど、今からできる手段を一つずつ試してみましょう。
もし限界を感じる場合は、次の住まい選びで音への配慮を重視することで、
静かな環境を手に入れることができます。
ぜひ本記事の内容を参考に、自分に合った音環境づくりに取り組んでみてください。
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