「自分の声が隣に聞こえていないか不安」な方へ
ワンルームや1K賃貸でひとり暮らしをしていると、
「隣に自分の声やテレビの音が聞こえていないかな?」
と心配になることはありませんか?
とくに、夜のリモート会議や音楽鑑賞、趣味の歌や楽器演奏など、
音の出る生活をしている人には大きな不安要素です。

この記事では、一級建築士の立場から、以下の疑問を解説します。
- 賃貸の壁は音をどれくらい通すのか?
- 自分の声や生活音は隣に漏れているのか?
- 確認する方法はあるのか?
- 有効な防音対策とは?
読んでいただくことで、音に関する不安を冷静に把握し、
自分にできる防音対策を選ぶための判断材料が得られます。
建物構造別|遮音性能(Dr値)の違いを知っておこう

賃貸物件の遮音性能は、構造によって大きく異なります。
音の伝わりやすさは、「Dr値(D値とも)」と呼ばれる指標で評価されます。
これは、隣室に届く音がどれくらい減衰するかをdB(デシベル)で示したものです。
DR値は構造ごとに大まかな目安があります。
建物構造 | 遮音性能(Dr値) | 音の伝わりやすさの目安 |
---|---|---|
木造 | Dr-30〜35 | 音がそのまま聞こえることも |
軽量鉄骨造 | Dr-35〜40 | 会話は聞こえるが内容は不明な程度 |
RC造(鉄筋コンクリート) | Dr-50〜55 | 通常の会話はほとんど聞こえない |
たとえば、Dr-30の木造アパートで80dBの歌声を出した場合、隣室では約50dBになります。
これは、静かなオフィスや図書館程度の音量で、普通の会話レベルの音が聞こえている計算になります。
一方、Dr-55のRC造であれば、80dBの音は25dBまで減衰します。
これはささやき声以下のレベルで、ほぼ聞こえないと考えて良いでしょう。
ただし、実際の音の伝わり方には以下のような要素も影響します。
- 築年数が古い物件では窓やサッシに隙間ができて音漏れが発生しやすい
- 壁や床の施工精度や部材の厚みも遮音性能に関わる
- 最近の物件は、木造でも高性能断熱材や遮音ボードを使っていることがある
「RC造だから安心」「木造はうるさい」といった単純な判断は禁物です。
あくまで傾向としての参考値と考えてください。
dB(デシベル)別|生活音の目安と音の減衰例

音の大きさは「dB(デシベル)」で表されます。
一般的な生活音は以下のように分類されます。
音の種類 | 音量(dB) |
---|---|
ささやき声 | 約40dB |
普通の会話 | 約60dB |
テレビ(中音量) | 約65dB |
歌声(本気で歌う) | 約80dB |
アコースティックギター | 約75〜85dB |
たとえば80dBの歌声を出した場合、構造別の隣室での音量は次のように推定できます。
構造 | DR値 | 隣室での音量 | 備考 |
---|---|---|---|
木造 | Dr-30 | 約50dB | 普通の会話レベルで聞こえる |
軽量鉄骨 | Dr-35 | 約45dB | 小さな声くらいに減衰 |
RC造 | Dr-55 | 約25dB | ほぼ聞こえない |
このように、音源のdB値からDr値を引いた数値が、隣室に届く音量の目安になります。
夜と昼で音の聞こえ方が変わる理由とは?
「夜になると音がよく聞こえる気がする」…
それは気のせいではありません。
この現象は、「暗騒音(背景音)」の違いによって説明できます。
時間帯 | 暗騒音の目安 | 備考 |
---|---|---|
昼間 | 40〜50dB | 車や人の声などが常にある |
夜間 | 20〜30dB | 非常に静かで音が響きやすい |
暗騒音が低い夜間は、小さな音も際立ちます。
昼間は聞こえなかったテレビの音や会話が、夜になると隣室に響く可能性があります。
つまり、音漏れのリスクは夜のほうが高まるということです。
隣の生活音を聞いて遮音性能の目安を知る

自分の音が漏れているかを確認したいとき、直接聞くのは難しいかもしれません。
その代わりにできるのが、隣の音を聞いて遮音性を逆算する方法です。
以下のような生活音が聞こえるかをチェックしてみてください。
- 隣のテレビの音(セリフまで聞こえるか?)
- 会話(何を話しているかわかるか?)
- ドアの開閉音や足音(頻度や大きさ)
たとえば、内容までわかる会話が聞こえるなら、
おそらく自分の音も同程度に漏れていると推測できます。
逆に、音の存在にすら気づかないなら、かなり遮音性が高い構造の可能性があります。
NG防音対策|吸音シートは音漏れに効果なし

ネット通販などでよく見かける「防音シート」「吸音パネル」は、
音の伝達を防げると思われがちですが、注意が必要です。
これらの多くは吸音材であり、室内の反響を抑える効果はあっても、音漏れを防ぐ効果はほぼありません。
理由は、音を遮るには「質量」が必要だからです。
これは「質量則」と呼ばれ、壁の重さが2倍になると遮音性能は約6dB向上するとされています。
質量則:「壁や材料が重く(=質量がある)なるほど、音を通しにくくなる」という防音の基本ルール
ウレタンやフェルトなどの軽い素材では、音のエネルギーを止められません。
「防音」を目的にこれらを貼るのは、労力の割に効果が乏しい対策となります。
建築士が勧める現実的な防音対策3選
次に、実際に効果が見込める防音対策を3つ紹介します。
いずれも、遮音の理論や音響の原則に基づいた現実的な方法です。
① 重い家具や本棚を壁際に密着させて音を遮断

隣と接する壁に、本棚や収納棚、冷蔵庫など質量のある家具を設置すると、
音の透過を弱める効果が期待できます。
家具の中に物が詰まっているほど効果があり、5〜10dB程度の遮音効果があります。
ポイントは、背の高い家具を壁にぴったりと設置することです。
すき間があると音が回り込みやすくなります。
② ホワイトノイズマシンで音の存在を目立たなくする

ホワイトノイズは、雨音や風音のような一定の周波数を持つノイズで、
「人の声や生活音をマスキング(隠す)」する効果があります。
そこでおすすめなのが、ホワイトノイズマシンの導入です。
ホワイトノイズを意図的に流すことで、
自分の生活音の周波数を打ち消す=マスキング効果が期待できます。
とくに夜間に、自分の音が聞こえにくくなるだけでなく、
周囲の物音にも過敏にならずに済むという副次的効果もあります。
寝つきが悪い人にもおすすめです。

過去に住んでいたアパートの壁が薄く、隣人の生活音が気になり寝付けないことがありました。その時にこのホワイトノイズマシンに出会い、暮らしが守られました(笑)
▽おすすめのホワイトノイズマシン紹介記事はこちら▽
③ 限界を感じたら、RC造への引っ越しも視野に
「家具を置いても音が気になる」「そもそも壁が薄い気がする」と感じるなら、
構造そのものに限界がある可能性があります。
この場合、RC造(鉄筋コンクリート造)への引っ越しは、
遮音性能が20dB以上改善する可能性があり、最も確実で効果的です。
まとめ|音の不安は「知識」と「構造理解」で軽減できる
賃貸暮らしでの音の不安は、感覚ではなく、数値や構造を知ることで客観的に判断できます。
もう一度、重要なポイントを整理します。
- 遮音性能は構造だけでなく築年数・施工精度も影響する
- 自分の出す音のdBと部屋のDr値で、隣室への音量が推定できる
- 夜は暗騒音が低いため、音漏れリスクが高まる
- 吸音シートの防音効果は薄い
- 現実的な対策は「家具配置」「ホワイトノイズ」「引っ越し」の3つ
この記事をきっかけに、音に対する不安が少しでも軽減されれば幸いです。
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